世界一の夜 |
なぜ一年ぶりかと言えば予約が全く取れない。
店主が怠けて休んでいる訳ではない。
この店はわずか8席のカウンターのみ。
たちどころに予約でうまってしまうのは訪れた客が次回の予約を取り付けるから。
一年前にはうかつに予約を忘れてしまったという訳。
昨夜も次回の予約をしたところすでに7月まで待たされることになってしまった。
決して豪華とかではないその料理の数々は一品一品が厳選され、または熟成された手心のこもった逸品ばかり。
一口食べては下を向いて唸ってしまって一言『うまい!』
また肴に合った酒が手際よく運ばれてくるので箸も杯もいやおうなく進んでしまう。
本来自分自身が手をかけた店にはあまり立ち寄りたくないものだけれどここは特別。
心身ともに溶けてゆく心地よさは店主の絶妙な采配に寄るところが全て。
誰しも自分の物差しの中で世界一の店を持っていると思うけれど私にとってはこの店こそが世界一なのだ。