ノスタルジックスポーツ |
今回は全国のBMWディーラーが新しくラインナップが出揃った1シリーズの紹介キャンペーンの一貫として試乗会を開いたものと聞いた。
先日ここで報告した通り当初は135iの試乗を希望したが、そういうわけですでに試乗車は出払っていたわけだ。
個人的にはMシリーズに非常に興味があり、なおかつ一度も運転した事無いZ4シリーズにのれるという一石二鳥のセッティングでもあっていそいそと出かけた訳だ。
さて試乗車は東京世田谷の環八に位置するヤナセに用意してあった。
朝から大勢の営業氏が出迎えてくれた。その出迎えはちょっと威圧的ではあったがこちらも威圧的というカテゴリーではなかなか負けないレンジスポーツのハナッツラをそのアプローチに向けた。
クルマを預けて担当営業氏を待つ間、展示の1シリーズカブリオレを眺めてみる。
丁寧に創られた内装の仕立てや幌の納まり等はシリーズを越えた仕上がりを見せる。
価格を見ればさもありなん。諸経費込みで500万円に至るわけでこれは高級車というカテゴリーに入るのだから。
お待ちかねの試乗車が用意され、若い営業氏と挨拶を交わす。
会話もそこそこに早速真紅のZ4Mロードスターに近づくと右ハンドルである事が確認出来て少し安心する。不慣れなクルマで左ハンドルMTはちょっとごめんであるからな。
《外観デザイン》
外観上の変更点は3.0iと比べても微小なもの。
フロントチンスポがレースカー並みの形状になっていて良く見れば“稲妻プレス”が逆プレスになっていていささか勇ましくなっている。
マイナーチェンジでやや形状を変えてきたところをみるとデザインにちょっと悩みが散見される。
リアコンビネーションも初期型に見劣りすると感じる。これも良く見ればプレスを若干変更しているように感じるが些細なレベル。
この車のデザインのハイライトはサイドビューであると私個人は確信している。
《乗り込んで》
低いドアを開けて穴蔵に入るように乗り込む(結構低いな)。
電動シートで足元をアジャストし、ステアリングに手を掛ける。近い!
上下と前後の調整では完璧に調整出来ない。そうだこの車は手足の長いアメリカ人用なのだと思い出す。
全てのラインナップの中でこのZ4とX5はアメリカ製なのだ。
そういえばこのクルマ、雑誌の試乗記にも“アメリカンスポーツ”などと評されているものが散見される。
試乗コースは東京川崎間の高速道路と聞いて嬉しくなる。
お縄にならぬよう注意して行かねば。
しかしこういう場合、地元警察に心付けなど送って手綱を緩めてもらう配慮はすでにされているはずだが。
1、3、5等の他の最新モデルとは違い、普通にキーを捻ってエンジンをかける。
伝統的にMは白いメーターだった気がするがこれは黒に赤い指針。地味で良い。
何事も、全く何事もない地味な始まりが個人的には気に入った。
内装面材もカーボン調でそれなりの雰囲気を醸し出している。
唯一標準のぱかっと開くナビゲーションクラスターがシンプルな内装に泥を塗っていると個人的に思う。
陽気もいいから電動ソフトトップを開け放して走ろう。スイッチ一つで短い時間でそれは全開になる。
四月の日差しが目にまぶしいがサングラスは掛けている。風除けの為に薄手の革のシャツも着てきた。
《走り出すと》
割と重めの(といっても昔のスポーツタイプからすれば軽いが後で“踏んだ”135iの3倍は重い)クラッチを踏んで道中の短いシフトを1に押し込む。ゆるゆるとクラッチを繋いでみる。ハイチューンエンジンにありがちなストンとストールするような気配は無いが、やはりフライホイル等は軽いと見えて一発で発進するのには少々気を使う。
高速迄は渋滞の環八。ここでクラッチを切ったり繋いだりのタイミングに慣れる事が出来た。
ふと気がつくとすでに慣れ親しんだクルマのように扱える気がしてきた。
一般路では2,000回転も回っていれば流れるようにシフトアップを許す低速トルクは普段使いを許容する(後で見たらカタログデータでは2000回転で80%のトルクが出ている)。
ドアミラーやバックミラーも適度に大きなサイズで車線変更に有効に作用する。
可変ではないステアリングも重過ぎず軽過ぎずクイック過ぎずダルでもない。
《高速編》
『なんか良いクルマだなあ』と感じ初めたところで高速道路へ登る。
あくまでも普段使いの感覚でどんどんシフトアップしても、6速に放り込んだ時点でさり気なく法定速度を二割ほど上回ってしまう。
往路はあくまでも完熟走行に徹し法定速度+αで変速を繰り返してみた。
100km時のそれぞれの回転数は6速で2400回転位、5速で3500回転と少し、4速で4000回転ほど、3速で5000回転弱。風の巻き込みはそよ風程度。
3速の守備範囲が事実上の高速での追い越し加速の最大Gを発生させるようで、ここから一気に7000回転迄(リミットは8000)軽々と吹け上がるエンジンを楽しむと150km+ほどに針が指し示す。
この時点でも風の巻き込みはさほどではないので天候さえ許せばほぼ1年中解放出来るかもしれない。
この3,245cc直6は軽々といってもやや重さを伴う回転マナーは“機械であること”を忘れさせないしこれをシルキーとは言いがたい。あくまでも機械を意識させる。これが素敵だ。
135i(これは乗ってないから何とも言えない)やエビちゃん335iの上質なそれとは全く異なるこれは良家のおてんば娘という魅力に溢れる。
《お約束発進加速》
帰路の料金所からの発進で(出来る限りの)全開を試した。
『ギュギャ〜〜〜!ギャ〜〜〜!!ギャ〜〜〜〜〜!!!』1速から3速迄は極めて繋がりの良いクロスレシオになっていてそれぞれがリミットに達する時間がほぼ均等であるようにしつらえられているようだ(1~100km加速5秒とは偽りではないと感じる瞬間)。
ホイルスピンはほぼ皆無。極太のリアタイアは343psをしっかり路面に伝えているわけだ。
『こりゃ〜〜たまらないねえ〜〜〜!』私の叫びにも似た声にナビシートの若い営業君も『気持ちいいですねえ〜〜』と二人で悦楽のひとときに浸っていた。
常軌を逸した速度はあまりに危険なのでその加速は3速で打ち止め。制限無くばそのまま250kmの世界へ入って行くのだろう(回転数計算してもそれは可能)。
たしかではないけれどそれぞれのギアは80km,130km,160km強だったと記憶する(関係各位様あくまでも記憶ですから・・・)。
シフトアップ時のクラッチの剛性感は素晴らしい。ダイレクトな接続感やステアリングに影響しない加速はやはりFRの特権。
《制動は?》
制動力はソフトにしてダイレクト。踏みはじめのナーバスな効きは皆無で、踏力に応じてギュギュっと効くそれはどんな状況でも助けてくれそうだ。しかしながら徹頭徹尾ソリッド感のあるポルシェのそれとは好みの違いで差異はある。
エンジンブレーキもかなり効果的に作用するので、峠道では重宝するだろうと思われた。
これ見よがしな色に塗ったキャリパーカバーではないけれど効きの事実が高精度な工作部品である事を雄弁に語る。
但しヒールアンドトーの際Bペダルが手前過ぎるからかかとがAペダルに届きにくい。
制動を大きく掛けたときにぴたっとハマりそうだから相当のスポーツ走行時にフォーカスされたポジションなのだろうと納得せざるをえない。
《ちょびっとコーナリング》
高速を下りてまだ時間の余裕があったので“いつものくねくね道”への試乗を許されたのでステアリングをチェックしてみる。
“あまかった”
ステアリングが甘かったのではなく己の期待が甘っちょろすぎたのだ。
夜中に若い走り屋が駆け抜けるこのつづら折りなんぞこの車にかかったら直線も同じだったのだ。
法定速度の数倍の速度で飛び込もうと軽く手首を繰るだけで何事も無かったかのように走り抜けるのだから。
リアの下回りにはあのデフクーラーが出番を待ってると思うと一層峠道をそそられますなあ。
《快適性など》
先にも書いたがこの車意外にオープン時の風の巻き込みは少ない。
それとびっくりするほど乗り心地(イージーな表現)がいい。
『このまま名古屋辺り迄行っちゃいますか?』とは先の営業君。
『女性ならね』と返したが、これは女性でも不満は出ないのではないだろうか?
常々当社のケイマンはナビシートの女性からクレームが出ているがこの車はイケルかもしれないなと思わせる。
騒音自体も低速で野太く乾いたサウンドが高回転で綺麗に揃ってキレて行くので運転者には極めて極上な機械を操っている実感が溢れる。
標準車を技術者の腕で“M”として昇華させた技術が偲ばれると言うものだ。
これは確かに公認チューンドカーなんだと思い知らされた。
《コストパフォーマンスは》
さてこのZ4Mロードスター。価格を考えた価値としてはいかばかりか判断しかねるが3シリーズがV8化した今となってはMとしては今や最廉価。
しかも伝統の直6は希少価値か。クーペもあるがエンジン音を楽しめる意味ではロードスターに軍配が上がる。その上純粋なMTのMモデルはこの車のみときている。
しかし諸経費込みで900万円が高いか安いかはもう好みの域。
買える買えない別にしたら確実に納得プライスだといえまいか?
《感想》
BMWと言うクルマはとても格好が良く極めてきちんとしたモノ造りをしているメーカーだと常々感じているが、今回乗ったこの車はそのイメージからやや逸脱し単なる良いクルマではなく万人が楽しめない(使い切れなさそうなところ)ところが魅力だと感じた。
クラシックな走り味を残しながら操作感は洗練させておいてデザインも好き嫌いがある。
『乗ってまじめ見て不真面目』そんなぎくしゃく感が好ましい。
3.0や2.5にもこのエッセンスがあれば私は迷わず安いモデルを買うがおそらくこれはMだけの、Mだけに与えられたスペシャルパフォーマンスなのだと思えてならない。
チャンスがあれば手に入れたいクルマのリストに入れて今回の報告を締めくくりたい。
なお同時に試乗車で集められていたクルマを一部見学
135iクーペ(結構人気かも)
M3セダン(結局一番売れそう)