メルセデスE320CDI |
燃料代高騰の昨今では自動車を取り巻く環境はにわかに(実際には2000年に入った頃から確実に動き出してはいたのだが)エコへと動き始めプリウスが順調な受注を上げているらしい。また来年以降完全な電気自動車が一般市販される予定もありこのセグメントは活況を呈している。
そんな状況の中今回はメルセデスE320CDI。
個人的に非常に興味深い一台。ぜひ今回のテーマでの最初の一台でレポートしたいと考えた。
メルセデスといえばヤナセがディーラーとしては有名で、そのネットワークは全国へ展開していていまやこの車はどこでも安心して購入出来るガイシャと言えると思う。
今回は試乗車検索をした結果、総本山ともいうべき芝浦でお世話になった。
試乗車に供されたのはなぜかアヴァンギャルドではないE320CDI。
初期ロットで輸入された“特別仕様車”という話であったがいろいろ訳ありとみた。
よってこのクルマのホイールは16インチのままで至って落ち着いた風貌。
サイドプロテクションモールにもAVA・・のレタリンクグは刻印されていない。
後述するが外観も走りも個人的にはこのモデルで良いと思う。
各サイズは
全長 mm
4,850
全幅 mm
1,820
全高 mm
1,465
ホイールベース mm
2,855
トレッド(前) mm
1,565
トレッド(後) mm
1,560
最低地上高 mm
140
トランスミッション 電子制御7速A/T
■エンジン
エンジン型式 642
種類・シリンダー数 DOHC V型6気筒
総排気量 cc
2,986
ボア×ストローク mm
83.0×92.0(ビッグボアショートストロークはあたりまえ)
圧縮比
17.7(凄い圧縮比である!)
最高出力
kW/rpm(EEC)
155/3,400
PS/rpm(EEC)
211/3,400
最大トルク
N・m/rpm(EEC)
540/1,600〜2,400
kg・m/rpm(EEC)
55.1/1,600〜2,400(このトルクは5.5Lモデルより大きいのだ)
燃料供給方式
電子制御式
使用燃料・燃料タンク容量(リットル)
軽油・80(高速道路なら1,000km以上無給油で走行可と思われる)
■重量
車両重量1,770(1,790)kg
ちなみにハイブリットでもなんでもないからエンジン以外の要素は車重以外普通のガソリン車と変わりなく、トランクや居住スペースへの影響が全く無いと言うのはこのディーゼル車の特徴と言えば特徴かもしれない。
早速ドアを開けて運転席に滑り込む。
運転席廻りの景色は最早見慣れたEクラスのそれだ。
少々ヘヴィーなウッドトリムはメルセデスならではのものであり、これが好きな人にはこれで良いと思わせる。
キーの先っちょの無いキーを普遍的な位置にあるホルダーへ入れて、これまた普通に右へ回す。
昔のディーゼル特有のウォームアップも無く、いとも簡単にエンジンに火が入る。
センターに大きめの速度計、左が時計で右が回転計となるこれも昔ながらと言えばそれまで。
回転計と時計が同じサイズだから時計は大きく、回転計は小さく感じるのは慣れの問題だろうがエンジン回転と時間を同じ評価軸としてデザインに組み込むのはこの車のユーザーの使い勝手をリサーチした結果なのかもしれない。
アイドリングは極めて静か・・・とばかりも言えない。
V6エンジンにあるまじき振動が車体を震わせる。しかしこれは振動だけだから同乗者にはほとんど気にならないレベル。
昔の190の4気筒エンジンくらいの振動といえばわかりやすいか。
エンジン単体に付いてはメーカー説明をごらんあれ。
革のブーツに隠されたスタッガートゲートの一番下にシフトを入れるとDレンジ。
センターコンソール左前部にあるS/E切り替えスイッチで1速発進を受け付けるスポーモードに入れる事が出来るのも昔から2速発進を基本にするメルセデスならではのもの。このカテゴリーでは変わらない事が重要なのだと思わせられる。
アヴァンギャルドでないこの車両はステアリングパドルは無いがこのエンジンにはそれがあっても全く意味をなさないはずだ。
ダッシュボード右下のパーキングリリースレバーも伝統的なしつらえだが、電子ブレーキに慣れた身としては1日も早い電子化を願う。
ユルッとアクセルペダルを踏み込んで路上へ出る。
縁石の小さな段差にも“ドンドン”とフロントの重量物が上下する衝撃を感じる。
ちなみに車重は1,8tたらず。それにしてもちょっと重くかんじる。
普通にアクセルを踏んで加速すると普通の車のように静かに滑っていくのには今更誰も驚きもしないだろう。
音や振動もアイドリング時よりむしろ静かなくらいなのだ。パワー的にも振動的にも感覚的には2.4L直4程度と感じられる。
幾つかの交差点を曲がって感じた事は『あくまでも普通である』ということだった。
しかし夏休みでガラガラの大通りに出てはじめて大きくアクセルを踏んだ時全く別の性格に変貌した。
一呼吸置いてから得られた絞り出されたようなトルクフルな加速は『おお!これは!!』思わず声が出る。
なんていうか地の底から引っ張られるような加速Gが三半規管を刺激する。
回転数とは関係ない速さといえばわかりやすいが言葉で表しにくい新感覚の加速だ。
重いものを大人数で引っ張ってもらってるような、何とも言えない加速感なのだ。
知らずに乗ったらまずはターボ車と思うに違いない。
営業氏も言っていたし、カタログにもそう書いてあるが5L車なみのトルクが背中をぐんぐん押し出してゆく。
気がつけば制限速度を遥かに越えた速度計の数値がその秘められた力を表している。
『ああ、こいつは面白い加速だ』交差点を曲がってまた日常的速度域に戻りながらそうつぶやいた。
都内での平均燃費が10km/Lをかせぐというのだから驚きだ。
その上軽油だから20%程燃料単価も安いのでトータルでは半額以下の燃料代ということになろう。
しかし、この最先端のディーゼルを手に入れるのにはおよそ900万円の大枚が必要になる。
この場合のエコというのは倹約ではなく身銭を切ってでも有機燃料を節約しようという類いのものと考えれば成立する。
また、メルセデスのこのディーゼルはエンジン単体は非常にスポーティーなのだけれど通常走行時は至って普通の自動車であって、道具に徹するもの。逆にメルセデスとはそう言う車だと達観して使用すれば車も本望だろう。
モデル末期に突入したEクラスだけれどクルマ好きの視点で俯瞰した場合に選択する気持ちは充分にある。
しかしながら個人的に不自然と思われるステアリングフィールは毎日の手足としては納得出来かねる。
足回りの剛性感の不足も(あくまでもフィーリングのレベル)メルセデスとして不満が残る。
新型のスクープもちらほら出始めた現在、大幅なディスカウントでも期待出来れば一考の余地を残す。
ガソリンエンジンのその自主的に(実際には違うが)燃焼を繰り返し高揚していく感覚に慣れ親しんだ我々がそれ以外の内燃機関もしくは別動力源にシフトしていく勇気を持たなければならないのだけれど、車自体の出来不出来を云々したくなっていてはその門戸は閉ざされたままなのかもしれない。
積極的にトライしていきたいと思い始めている今日この頃なのだ。